遙か彼方
図書館の中に入れば、やっぱり灯りは点いていなかった。
月明かりを頼りに進むしかない。
冷房も点いていないらしく、昼間の冷たい空気が微かに残る程度で、それでも外の蒸し蒸しした空気よりは断然涼しかった。
この奥に彼が居ると思ったら緊張してきた。
喉が詰まりそう。
夜の図書館は勿論誰も居ない。
いつも当たり前に居る司書の人すら居ない。
この奥に彼が居るとすれば、完全に二人きり。
正体を証すということはどういうことだろう。
まさか変なことはされないでしょう?
彼に限ってまさかね。
でも彼と出会って僅か二日。
完全に信用することは難しい。
ただ……、彼は優しい人だと思う。
だから完全に信用することは難しいけど、信用したいとは思う。
こんな時、男と女というものが面倒だと感じる。
同性ならそんな余計な心配いらないのに。
図書館に入った時は涼しかった空気も、慣れてくれば蒸し暑い。
一番奥の本棚を曲がればいつもの私の居場所。
そこに窓の外を覗く彼が居た。