遙か彼方



彼の姿を見た私は、無意識に一歩後ろに下がってしまった。

何かに掴まっていないと腰が抜けて座り込んでしまいそうで、というか何かを掴んでいないと不安で、右手ですぐ傍の本棚を掴んだ。

胸の上に置いていた左手は、そのままTシャツを握った。


とにかく何でもいいから掴んでいないとその場に居られなかった。



そんな私を見て彼は悲しい顔をする。

その表情に私まで悲しくなった。


彼にそんな表情をさせているのは私なのに。


それでも私は、彼に恐怖を感じてしまう自分を抑えることが出来なかった。





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