遙か彼方
『じゃあ10時に食堂に行くね』
「……何で今日こんなに早いんですか?」
いつもは9時くらいに電話をくれるのに。
『昨日も電話したんだよ?』
「え?」
『見てない?着信履歴』
「あー…見てない」
それどころか触ってもいない。
どうせ電話もメールも来ないし。
でも電話が来ていたらしい。
『そうだと思った。だから今日は図書館に行く前に電話してみました。昨日は早く出たんだね』
「なんとなく、起きちゃって」
『そっか。じゃあ食堂でね』
「はい」
電話を切って着信履歴を見てみると、確かに佐山さんから着信があった。
私のケータイは携帯電話なんて名ばかりでちっとも携帯していない。
ベッドの枕元に置きっぱなしになっている。
勿論、図書館にも持っていかない。
解約してもいいとさえ思っている。
でも佐山さんが持っていなさいと言うから、ろくに使ってもいないのに未だに持っている。