遙か彼方
支度をしてもまだ時間に余裕があったから、私は図書館に向かった。
「葵」
「美桜、おはよう」
「おはよう」
昼間の彼はやっぱり長袖にサングラスだった。
でもあの話を聞いてからは、もっと太陽の日射しを遮断する格好をした方がいいんじゃないかと心配になる。
「そんな窓際に居ても大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。100%太陽を浴びちゃ駄目って訳じゃないから」
「なんだかややこしい」
「だね」
微笑む彼の口元はとても穏やかに見えた。
昨日の悲しい表情なんて嘘のように。
「あれ?今日も本忘れた?」
「あ、違う」
「ん?」
そう。
今日図書館に来た目的。
「今日は出掛けてくる」
「買い物?」
「そう。一緒に来る?」
移動は車だし、お店の中をプラプラするくらい大丈夫かと思って。
「…ごめん。僕、大学から出たらいけないんだ」
「そう…」
そうか。
そういえば、存在を秘密にしないといけないんだった。