遙か彼方
佐山さんの車の中は英語の歌がガンガンにかかっている。
私には誰が歌っているのかサッパリわからない。
「美桜ちゃん、行きたいところある?」
「……特には」
「うーん。じゃいつもの所でいっか」
「はい」
“いつもの所”とは近くのショッピングモールのこと。
あそこは何でもある。
1日居ても飽きない所だ。
「美桜ちゃん何か雰囲気変わったね」
「え?」
「この間会った時より柔らかくなった気がする」
「そうですか?」
「だってさ、さっき寮母さんに『話、いいんですか?』って言ってたでしょ?あれ実はビックリした」
「はあ……」
私ビックリさせるようなことしたかな。
「前の美桜ちゃんだったらそんなこと言わなかったよ。例え思ってても口には出さなかった。人とコミュニケーション取る気ゼロって感じで必要最低限しか喋んなかったし」
言われてみれば、そうかもしれない……。
「何かあった?」
「あ、いや……。ないです」
彼のことを言ってはいけないというよりは、私がただ単に言いたくないと思った。
なんとなく……。