遙か彼方
佐山さんの顔を見ていると、目が合った。
運転中の佐山さんはチラッと私を確認しただけですぐに前を向く。
「何?」
「佐山さんって……」
「え?」
「佐山さんって、父と仲がいいんですか?」
今更ながらそう思った。
だって佐山さんは言わばお父さんの教え子の一人に過ぎない。
でも私の世話係を任されているということは、それほど仲がいいということ。
「特に仲がいいって訳でもないかな?顔と名前は覚えて貰ってるけど」
「……じゃあ何で私を迎えに来たんですか」
「教授の前を通ったから…」
「はい?」
「いや、教授が放送で呼び出された時にちょうど俺が居たんだよ。だから代わりに電話出てこいって言われて」
“電源出てこい”?
何そのいい加減さ。
「最低」
「でも教授も忙しいから」
佐山さんが慌てたようにフォローを入れる。
でもそんなものは右から入って左へ抜けた。
「それで、父はどこまで知ってるんですか」
自分でもわかる程、声に棘がある。