遙か彼方
………思い出せない。
「手紙、どこにありました?」
「ダイニングテーブルの上にあったよ」
あー、そうか。
読んでそのままにしたのかも。
何だかあの日の記憶はあやふや。
脳が“思い出すな”そう言っている。
辛い記憶は思い出したくない。
覚えていたくもない。
……でも。
全てを忘れる訳にはいかない。
あの日、私は捨てられた。
だから今私は大学の寮に居る。
それが今の私の全てだから。
「それで、父は何て?」
自分のせいで妻は出ていき、娘は不登校になった。
それを聞いてお父さんはどう思った?
「……わかった、って」
「……それだけ?」
「そう…だね」
わかった?
何がわかった?
わかっただけ?
わかってそれから?
「美桜ちゃん……」
慰めるように私の名前を呼ぶ佐山さん。
その声に反応するように私の涙腺は弛んで、視界が滲み出す。
こんなに辛い思いをしているのに、お父さんにとっては“わかった”の一言で済んでしまうことなんだと思ったら凄く悔しかった。
そしてその何倍も哀しかった。