遙か彼方
寮の目の前で車が止まる。
佐山さんはギアを“D”から“P”にしてハザードを点滅させた。
「美桜ちゃん」
真剣な顔が私を見つめる。
私は泣いた酷い顔を見られたくなくて、俯いたまま返事をした。
「はい……」
「俺、頼りないかもしれないけど、全然頼ってくれて構わないから」
「…はい」
「一人で溜め込んでないでぶちまければいいから」
「…はい」
「美桜ちゃん」
名前を呼ばれてつい顔を向けてしまった。
目が合った顔と顔は、意外と近かった。
「??」
佐山さんの眉間に一瞬シワが寄ったと思ったら、ふっと顔を反らされた。
「……何でもない。また誘うね」
「はい……。ありがとうございました」
そう言って車を降りると助手席の窓が開く。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
ハザードを消して、車は走り去る。