遙か彼方
「美桜!」
呼ばれた声に視線を向ければ、図書館の前に彼が立っていた。
「葵」
私のことを待っていてくれたのかと思うと、顔がにやけた。
手を振る彼に、私も手を振り返す。
夜の彼は昨日と一緒で夏の服装をしている。
……でも待って。
貴方はその格好でいったいいつからそこに居た?
「何してるのっ」
私は慌てて彼に近寄った。
「え?美桜を待ってた…」
「いつから?」
「……さっきだよ」
私の慌てっぷりの原因が彼にもわかったようで、笑顔で大丈夫なことが私にもわかるように言った。
でもそんなことわからないじゃない。
ついさっきまで空には太陽は登っていた。
「ムチャしないで……」
「大丈夫だよ」
あっけらかんと言う彼を私は軽く睨んだ。
「美桜?」
そう呼ぶのを無視して、私は彼の腕を掴み図書館の扉に手を掛けた。