遙か彼方



沈黙が続いた。

でも気まずさは感じなかった。


手を握り合ったまま、下を向いている彼の頭が目の前にある。

その頭におでこをくっつけた。

彼は一瞬ピクリと動きはしたけれど、体勢を変えることはしなかった。



「…葵?」

「ん?」

「どうかした?」


そこでやっと彼は顔を上げた。


上目遣いの困惑した顔が私を見つめる。

それに私の心臓は反応する。

男のコの上目遣いも立派な武器になるらしいことを初めて知った。

さっきからキュンキュンしどおしだ。



「僕、美桜のお父さん知ってるかも……」

「え?」

「あっいや。違うかも。てか違うよっ。滝沢なんていっぱい居るしっ」

「………」


お父さんを知っている?

何で知ってるの?


「……ごめん。余計なこと言った」

「………」

「明日会いに行けば分かるよ」

「………」

「美桜?」


私はただ黙って頷いた。

頷くことしか出来なかった。






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