遙か彼方
「座ろっか」
佐山さんは笑いを堪えた声でそう言った。
よっぽど酷い顔をしているんだろう、今の私は。
今居る場所は三階と四階の間の踊り場。
私は階段の段差を避けて、踊り場の床にペタンと座った。
佐山さんは私の斜め前で階段に座る。
「何階まで行くんですか?」
「五階だよ。もう少しだから頑張ろう」
五階もある建物に何故エレベーターが無いのか不思議で仕方がない。
おかげでいい運動になった。
…なんて、心の中で悪態をついてみた。
「なんか緊張してきた」
そう言ったのは佐山さん。
「俺が緊張してどうすんだって感じだけどね」
「そうですね」
「あはは」
緊張か……。
しないでもないけど、言うほど緊張していない。
だって…。
お父さんだし。
…お父さんはお父さんだし。
「行ける?」
「はい」
本当はもう階段なんて上りたくもないけど、最後の力を振り絞って階段を上った。
五階に着くと、そこが最上階だった。