遙か彼方



「座ろっか」

佐山さんは笑いを堪えた声でそう言った。

よっぽど酷い顔をしているんだろう、今の私は。



今居る場所は三階と四階の間の踊り場。

私は階段の段差を避けて、踊り場の床にペタンと座った。

佐山さんは私の斜め前で階段に座る。


「何階まで行くんですか?」

「五階だよ。もう少しだから頑張ろう」


五階もある建物に何故エレベーターが無いのか不思議で仕方がない。

おかげでいい運動になった。

…なんて、心の中で悪態をついてみた。


「なんか緊張してきた」

そう言ったのは佐山さん。


「俺が緊張してどうすんだって感じだけどね」

「そうですね」

「あはは」


緊張か……。

しないでもないけど、言うほど緊張していない。


だって…。

お父さんだし。


…お父さんはお父さんだし。



「行ける?」

「はい」


本当はもう階段なんて上りたくもないけど、最後の力を振り絞って階段を上った。


五階に着くと、そこが最上階だった。






< 93 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop