遙か彼方
デスクの上は右も左も前も資料が山積みで、丸まった背中が見える程度。
資料の間に頭をずっぽり隠している。
佐山さんは足を止めて振り返り、私に笑顔を向けた。
それはきっと“大丈夫だよ”という印。
私もそれに答えるように頷いた。
「滝沢教授」
「ん?なんだ?」
ピクリとも動かず声だけで返事をする男性。
でも…。
この声は確かにお父さんのもの。
「美桜さんを連れて来ました」
「あー…、悪いが後にしてくれ」
お父さんは頭の後ろで手をひらひらさせる。
「いや、でも…」
「今は手が離せん」
「教授!」
「静かにしろ!!」
佐山さんが大きな声を出すと、お父さんの隣の人が更に大きな声で怒鳴った。
その怒鳴り声に私の肩が震えた。
そこで私の思考が停止していたことに気が付く。