遙か彼方
「すみません…」
そう言った佐山さんが何故か私に振り返る。
大きな手が伸びてきて、私の頭を撫でた。
それが私の心を温める。
私はいつの間にか佐山さんの服の裾を掴んでいたらしい。
だから佐山さんが振り返ったんだ。
この嫌な空気が耐えきれなかった。
誰かにすがりたかった。
そうして佐山さんの服を掴めば、佐山さんは私の期待以上のことをしてくれた。
もう大丈夫。
私は、大丈夫。
「教授、せめて顔だけでも…」
「佐山さん」
私は佐山さんに向かって首を横に振った。
「……美桜ちゃん」
そして笑ってみせた。
眉尻を下げる佐山さんを見た後、お父さんの丸まった背中に視線を移す。
「お父さん……」
「……」
「寮、用意してくれたのお父さんだよね?ありがとう」
「……あぁ」
「忙しい時に急に来ちゃってごめんなさい。また来るね」
「……」
「行こう。佐山さん」
「え、いいの?」
「はい」
私は踵を返して、部屋を出た。