【短編】The last bet
夜も更けて、子供部屋で仲良く同じ寝相をする奏多と詩歩を、ベッドの端から二人で眺める。
今までの談話も騒ぎも嘘のように、静かで穏やかな時の流れ。
天使の寝顔とは少々言いすぎだと思っていたけれど、こうしてジッと見ていると本当にそうなんだなと思ったりした。
寝息が静かな部屋に響く。
と同時に、横からため息にも近い息を吐く音が聞こえてきた。
ドクン、ドクンッ。
突如緊張状態に陥った俺の体は、鋼のように固まる。
何を思っているのかと。
何を言われるのかと。
二人が寝てしまって紀子と二人になった今、また、冷たく何か言われるんじゃないかと……。
まだ、好きだから。
何度か話し合いをして別れを決断したものの、今さらだけど別れたくないだのきつい言葉を投げ掛けられたくないだの、そんな感情が沸き上がる。
「愁……」
「何……?」
沈黙が流れ息を呑む。
「奏多と詩歩のこと、ちゃんと好きだった?」
それは予想もしていない言葉だった。慌てて肯定し、紀子の様子を伺うと、
「そう。それならよかった」
そう言って微笑んで、その場を立ち上がり部屋を出ていった。
暫く放心していた俺は、急いでその後を追っていった。