【短編】The last bet

「アハハハハハハッ」


いつになく真剣だった俺は豪快に笑い飛ばされて、ただそれを眺めることしかできなかった。

ようやく笑いが落ち着いた時には、軽くため息なんかつかれてしまった。


「私の勝ち、ね」

「えっ?」


思わず開いた口が塞がらなくなってしまう。

紀子はパンツのポケットに手を入れて、何やらガサガサと音を立てると、何かを取り出した。


「これは……」


目の前に出されたのは、


「そう、離婚届」


今日、判を押して提出されたはずのものだ。


「何でって顔してるわね。そうね、これは最後の賭けだったのよ」

「賭け……?」

「そう。愁のこと嫌いじゃないし、寧ろ好きだから……何年も続いたあの状態に絶えれなくなったの。私ね、変わって欲しかった。少しぐらい家族のことを想っているんだって、態度で示して欲しかったの」


離婚届を広げてそれを見つめる紀子。


「だから、本当は離婚なんてしたくなかったけど、離婚を突き付けて変わってくれることを期待したんだ。変わらなければ、離婚届は出すつもりだったんだけどね」


何だ。

そっか……。

急に体の力が抜けて、俺は再び床へと体を落としてしまった。

紀子もその場に屈んで視線を同じにすると、


「愁、やり直そっか」


悪戯っぽく笑みを零した。



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