【短編】The last bet
「これに押して。それで終わりだから」
鮮やかな緑がやけに虚しく映る。
一呼吸置いて紙を押さえ、手に持つそれを強く押しつけた。
情けないことに、ここにきてそれ以上手が動かない。
いや、動かしたくなかったのだ。
「後は私が出しておくわね」
けれど、それはあっけなく彼女の手によって抜き取られ、手元を離れ遠ざかってゆく。
そして一人取り残されたリビング。
蛍光灯の明かりはついているにも関わらず、以前の賑やかな食卓の風景を微塵も感じさせなかった。
何が悪かったとか。
何でこうなったかとか。
そんな理由すら皆目見当もつかなくて、ただひたすら戸惑いだけが頭を駆け巡る。
だけど、きっと。
原因は自分にあるのだと確信していた。
「紀子!!」
それを分かっているから判を押した。
それでも、譲れない想いがある。
「奏多と詩歩には会わせてくれるんだよな?」
最後の頼みの綱とでも言うように、か細い声で妻である紀子に問い掛ける。