【短編】The last bet
あぁ、そうか。
歩いて行くのも、こんな時間に行くのも、全てが初めてだからだ。
「どなたのお迎えですか?」
そんなことに気付いたのは、門をくぐり少しソワソワしながら記憶を頼りにクラスを探しているところを、一人の先生らしき人に話しかけられた時だ。
「いつもお世話になっています、渡邊奏多と詩歩の父です」
「あら、こんにちは。奏多くんと詩歩ちゃんのクラスはあちらですよ」
まったく正反対の場所にいた俺は、少々恥ずかしく思いながら軽く会釈をし、二人のいる部屋へと向かっていった。
運動会も発表会も保育参観も。
すべて紀子に任せていた。
いつも、二人の様子は写真やビデオで見るだけだった。
仕事の忙しさにかこつけて、何一つ……俺は参加しなかったんだ。
迎えさえも。
最後に行ったのはいつだろう。
確か紀子が高熱を出した時、無理言って仕事を早退した時だから、一年以上も前……だ。
「あれ? おとうさん?」
「おかあさんはー?」