【短編】The last bet
「今日は用事があってお休みしたんだよ。お母さんは家にいると思うよ」
「やったー! じゃあきょうは、みんなでごはんだね!」
「おかあさん、いつもさみしそうだもんねー」
ぴくりと耳が動き、ふと足が止まってしまう。
寂しい……?
紀子、が?
喜びはしゃぐ二人の背中を追いながら、俺はボンヤリと考えを巡らせる。
そんな言葉聞いたこともない。
それどころか、最後に会話したのはいつなんだろうか。
「ハハッ」
思わず苦笑した。
聞いたことがないんじゃない。
俺は、聞こうとしなかったんだ。
今までの自分を振り返ると笑いしか出てこない。
そんな風に自分自身を情けなく感じていると、不意に手に温かいものが触れた。
それが子どもの手だと気付くのはすぐで、
「あー、かなたもつなぐー!」
「へへっ、しほがさきにつないだからダメー」
何だか胸がほんのり温かくなる。
「じゃあ、順番な」
狭い歩道に両手で手を繋ぐわけにわけにはいかず、そう言って奏多の頭を撫でた。
すると、頬を緩めて俺を見上げ、大きく頷いた。