幸せのハードル
寂しさの中。
柄じゃないからと、伝えられないでいる言葉が山ほどある。
「幸せな別れ方をしたい」
「うん、」
「というか、別れるつもりもないのにね」
「『まだ』ね。」
「な、なんてことを…」
私たちは静かに笑った。
(だけれど、出会いは別れのためにある運命じゃないから。)
二人でひとつの生ぬるい缶珈琲が、とても、とても優しくて
すると唐突に何もかもが
愛しくなった。
堪らなく。
「わたしは、あなたの事が好きだと思う。」
「え、すごいね」
「なにが?」
「同じこと考えてた。」
夕日は世界中を染めてしまいそうなほど、じわりじわりと滲んでゆく。
もう少ししたら
地球は橙に沈むのだ。
「あああ、ばかみたい。
青春だよこれは 」
「これほど幸せなものはない。笑われたら笑ってやる。」
愛を決定付ける何かなんて要らない。
形にならない幸せほど、
幸せなものはないのだ。
おわり