世の中の
ここは、島でも数人しか知らない(立ち入り禁止区域だから)温泉が湧いているとこだった
「ん?…誰だ?」
見ると男一人、先客がいた。
よく耳を澄ましてみると、男は何かブツブツと言っていた
「俺の名は田中依羅弥(いろみ)
変な名前だが、気にしない。
小説家兼医者をやっている。
なかなかの美男子だろ」
「何言ってるんですか?」
耐えかねて友也は声をかけてしまった。
男は大して驚きや、羞恥の感じはなく、少しヘラリと笑いながら
「自己紹介の練習」
「あんなのが?」
「うん」
「もしかして、頭どこか打ちました?」
「頭打ってたら、病院に行ってるよ」
少し的外れな答えだったが、友也は気にせず
「あのさー、通り魔の犯人って知ってます?」
飄々とした態度で友也は聞いたが、田中は少し眉間にしわをよせた
「あんたさ…」
さっきとは違い、低い声になった。
「もしかして…」
そこまで言ったあと、フッと笑い、
「んなわけないか。こんな子供が」
「?」
友也は怪訝そうな顔で田中を見つめる
田中はそんな友也を見て
「通り魔の犯人なら、あそこにいるよ」
そう言って、建設中の別荘を指差した
「あそこ…」
友也は睨むように別荘を見る。