オバケの駐在所
先ほどから道を挟んだ
向かいの店先で
雨から避けるため
濡れた髪を分けながら
その場に往生してる
女の人が目に入る。

「……昔は俺もよく人に
使われてたんだけどな。
商家で番札なんか
つけられて
客人のお供したりさ。

あの時代は
人情を重んじてたから
この姿になってまでも
人に優しくしたがる。
まさか骨を折られるとは
思わなかったけど。」

笑いながら遠い目で
店先の娘を見る和傘は
過去の記憶を重ねて
昔の情景を
思い出しているのか
どこか物悲しげだ。

「ねぇ、おまわりさん。
あの子はあんな所で
雨宿りしていて
ちゃんと家に帰れるかな?」

「……さぁ、
誰かと待ち合わせ
してるんじゃないの?

大丈夫だろ。」

いつの間にか黒い帳面の
日誌を書き始めていた
おまわりさんは
その筆を走らせながら
あまり関心のないように
返事をかえした。
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