オバケの駐在所
舌打ちをしながら
彼はまた不機嫌そうな
顔をする。

「兄貴か。
どうやらあの腑抜けは
もう夢を諦めたらしいな。

まあ無理もねーか。
あいつは足、
俺は腕が
イカレちまったもんな。」

そう言って彼は
親指と中指で
ボールを弾いて回し
宙に飛ばす。

私はそんな彼の腕に
じっと注目してみた。

……この人にも憑いてる。

先ほどのガタイのいい人、
つまりはこの彼の
お兄さんなのだが
私との約束を
取り交わし、
その場を去る時
びっこを引いていたのが
気になっていた。

普通の人には
気づく事のない
何かよくないものが
片足に見えたような。

兄弟揃って……、
気になるところだ。

「なぁ、俺はもっと
すげぇんだぜ。
中学のシニアリーグの
時なんか
俺の球を打てる奴は
まずいなかった。
都大会でも打たれたのは
1回だけだ。」

う、嘘くさ……。

癖なのか
何度も何度も
指でボールを
真上に飛ばしながら
彼は言う。

「そしてそんな球を
受けれるのも
兄貴だけだったんだ。

なんでだろーな、
これからって時に
2人して……。
ついてねーよ。」

ふいに覗かせたその表情は
先ほどより見せる
威勢はなく
悲壮な瞳を浮かべている。
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