オバケの駐在所
わしは静かに腰を上げる。
別に音を立てちゃ
いけないわけではないが
狩りなんてそんなもんだ。

しかし赤ん坊は
何を察知したか
こちらを振り返った。

天性の勘か偶然か。
レーダーでも
見たわけじゃあ
あるまいし。

だが振り返った
赤ん坊の瞳は
あまりに無垢で隙だらけで
その恰好の標的っぷりには
思わずため息がもれるほど。

「おい、殺しちまうぞ?
いいか?」

そう言うと赤ん坊は
楽しそうに雲の上を
逃げ回りだした。

ジグザグと斜めに這ったり
距離をとって様子を見たり、
まるで鬼ごっこでも
しているかのよう。

それに片腕が無くて
バランスが悪いからか
横に何度も
転がっているのが目につく。

……何故だろうか。
別に哀れみを
感じる訳ではない。
ただ生まれたての赤子を
このまま食べて
人生を終えさせる前に、
何か1つくらい
喜悦に浸らせるのも
悪くないかなと
そう思っただけか。

わしはどうも接着の悪い
虎模様の片腕を
自ら取り外し、
カタワの赤ん坊を捕まえると
その生えてない側の腕に
わしの腕をつけてやった。
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