オバケの駐在所
「ただ遊んでただけと
思ってたのに…。
……ねぇ、
ここはどこなの?」

僕はまわりを
見渡しながら言う。
気のせいかどこからか、
太鼓らしき音も
響いてきてる気がした。
それは祭りの音に
よく似ている。

「ここは死んだ人が
済度される前に、
迷いこんでしまう事がある
輪廻の心層世界。
……とまあ、はやく言えば
この世とあの世の境目にある
迷界ってところかな。

それより美姫が捜してたぞ?
夏彦が急に
消えちゃったって。」

「僕が……?
そっか、僕はてっきり
美姫ちゃんが連れてかれたと
思ってたけど、
ただ僕が成仏しかけてた
だけだったんだね。
だから他の人が
少しづつ見えなくなって
いってたんだ。」

……あの時お母さんは
鬼から逃げていた。
その時遊んでいた友達が
あんな得体の
知れない者だとは
思わなかったけど、
お母さんはわかっていたんだ。
だから手を離してと言っても
離さなかったんだろう。

あの世とこの世を結ぶ
黄泉路での思い出。
それは生前に
偶然迷いこんでしまったのか、
死後の記憶なのかは
覚えていない。
ただ季節はちょうど
お盆の時期だったような
気もする。

お母さんは
僕が生まれたと同時に
亡くなっていた。

――さっきから
ハジメのおじちゃんは、
僕を鬼から隠すように
かばいながら、
木に寄りかかり
ずっとあたりを警戒している。

この人がなんで
ここまで来れたかは
謎だったけど、
迎えにきてくれて
とても安心した。

……だって変な事
ばっかでさ。

そうしているうちに
心持ち安らいできて、
いつしか眠りについていた僕。

つぎに気がついた時には
ある信号機の交差点だった。
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