オバケの駐在所
やはりと言うべきか
当然と言うべきか、
列車には他のお客さんも
乗っていた。

最初は薄ぼんやりとしか
見えなかったが
慣れてくるにつれ
だんだん輪郭を鮮明にして
声まで聞こえるようになる。

「……そしたらね、
死んでたのよー」

「あらぁ……体を
大事にしないとねぇ」

なんて他人事のような
会話をするおばあちゃん。

駅に着いて
たまに開く列車の扉から
ひんやりとした空気とともに、
時代遅れの
フォーマルなスーツとコートと
丸まったハットを
被ったおじさまが
ステッキを片手に
列車に乗り込んで振り返る。

それを見送る女の人は
大正時代にスリップしたような
シックなファッションで、
目下パリで
流行ってますといった
毛皮をあしらった
お洒落な格好。

そこには何か
物語があるように、
見つめあった2人に
ただ不自然に沈黙が流れる。

私はそんな2人の空間を
壊さないように
そっと次の車両に移った。
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