オバケの駐在所
「何が不満なんだ?
君は何を思い悩んでいる?」

私の瞳を見据えながら
そっと携帯を取り上げ
電源を切る。

辺りはすっかり暮れていて
おじさんの声に
微かにだが雑音が
入り交じっていた。

雨か……。
また降ってきた。

「……ちょっと、
疲れたかな?
なんでだろう、
私こっちに上京してから
色々上手く
いかなくなってさ。
仕事もやめちゃったし。」

実家に
帰っておけばよかった。
いや、
帰ろうとしたんだ。
両親や妹の顔を見れば
思いとどまっただろう。
いつだって私は大人ぶって
心配かけまいと
強がってしまってたんだ。
もっと
電話やメールをたくさんして
心を暖めて
もらえばよかった。
孤独を、寂しさを。
そーすればきっと
こんな事には……。

体が小刻みに震えていた。

あの血は……。
私は……。

俯むくと
涙が隠れながらにおちて
足下を突く。

母は帰ってきて
ほしかったようだ。
電話で心配だからと
言っていた。
でも本当は
ただ私の傍にいたいだけ。
そして私も家族や友達の愛に
触れ合いたかった。
……のに。

ちゃんとあの時、
話しておけばよかったな。
邪険にしなければ
よかった。
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