オバケの駐在所
俺は気配を
さとられないように
抜き足で走った。

無表情で……
呼吸を押し殺して……
瞳をかっと見開いて……。

いつの間にか包丁を
ポケットから出して
前に構えていた。

もしその様を
見ていた人がいれば、
その人には俺の動きが
とても滑稽にうつったか、
あるいは正気の沙汰とは
思えない
鬼とうつったか、
それは定かではない。

――気づくと
街灯に照らされた雪は
綿のように大粒で、
先ほどより多く
舞い落ちてきていた。

しんしんと……すべてを白く
塗りつぶすがごとく。

先の起こしてしまった事実まで
覆い隠せるわけでは
ないことはわかっている。

ただ目の前に倒れる男から
静かに流れる鮮血が、
白い雪にあまりにも映えて
現実味がないだけだ。

俺は駅に向かった。

印象を変えようと
乱れた髪型を
こだわりのワックスで
直すのも忘れている。

「ヒヒ、
やっちまったね兄さん」

全身の筋肉が
その声に反応した気がした。
振り向くとそこには
みすぼらしい頭巾を
かぶったばあさんが
笑みを浮かべて立っていた。
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