オバケの駐在所
「頼むから……
だまってくれ……」

俺は茫然とするほか
なかった。

ばあさんは首をふり、
ヨボヨボの細い手を
あらわにして、
駅の横にある
赤いちょうちんをつるした
小さな屋台を指差した。

「あそこへお行き。
私はお前を見かけたら
連れてくるよう
頼まれただけさ。
ハジメの奴にね」

「ハジメ?」

「警察さ。
昨日も会ったんだろ?
行っておいで。
私はここで消えるからね。
ヒヒ、目玉うまかったよ。
ごちそうさん」

奇っ怪な生き物のくせに
なぜかその言葉に
いたわりをもたせる。

そしてばあさんは
まとっていた
黒い布きれを残して、
中身だけどこかへ消えた。

俺はのれんのかかっている
くたびれた飲み屋に
1人の客がいるのを
確かめる。

オバケの言葉にしたがって
痛い目をみるのも
嫌だったが、
俺は少し腰をおろしたかった。

なにより警察という言葉は
今の俺にとって
もっとも拒めない存在だ。

俺は顔についた雪を
手の甲で軽く拭いながら
その店に入った。
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