オバケの駐在所
怪談 牡丹戻道
家の隣に、それは
とても綺麗な親子が
住んでいた。
どうやら母と娘のようで、
2人はいつも華やかな
着物を着ては
夜な夜などこかへ
出かけていった。
何をしているのかは
別に興味はない。
ただ、草木も眠りだすころ、
遠くのほうから
カラカラと駒下駄を鳴らして
徐々に家へ近づいてくる
2人の足音を聞くのが、
布団の中でのちょっとした
楽しみになっていた。
眠気まなこで窓からのぞいて
帰りを待つときもあった。
母のほうはただ若そうとしか
わからなかったが、
娘は年の頃でいうと
17、8くらいに見えた。
2人は袖を揺らして笑いあい
仲むつまじげに
一緒にいるのだけど、
そのほんわかとした
空気のなかに
どことなく
儚げな雰囲気があった。
なぜか……?
娘さんはいつも
和紙でできた
提灯ほどの四角い箱を
両手で抱えていた。
とても大事にしている
ものらしく、
肌身はなさず
持ち歩いているその箱。
そしてその箱には
淡い染め色に触れるように
牡丹の花が一輪、
鮮やかな色彩で
ほどこしてあった。