オバケの駐在所
触れた唇に
すでに感触はなく
私は死を感じ
誘われている事を
知った。

「ぬくもりが欲しかった。
もう一度、
人としての……。
死ぬのは嫌だよ……。」

涙を流す事も
もう無いのだろう。
話す事も、
触れ合う事も。
これといった
証を残すわけでもなく、
誰にお別れを
言ったわけでもないのに。
慈しむ事を知っている
おじさんと
もう少し早く
出会いたかった。

「ねぇ、
私と一緒に……。」

静かな息づかいが一つだけ
聞こえてくる。
その確かな命が
私は羨ましいのだ。
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