オバケの駐在所
新三郎という和服の男は、
ハジメさんの影に隠れて
怖がっている花遊さんを
もう一度みて
ガクッと肩をおとした。

「……手紙に書いていたろう?
初恋の頃より
いつまでもわたしを
慕っていますと。
あれは嘘だったのか?」

花遊さんは必死に
首を振るばかり。

「……そうか。
ならいいんだ。邪魔をしたな」

そう言って交番から
去っていく和服の男。
その後ろ姿は何か
もの悲しさがあった。

私とハジメさんは
顔を見合わせて、
花遊さんへと視線を移す。

するといたたまれなく
なったのか、
花遊さんは奧の部屋へと
逃げこんでしまった。

「どうやら
身に覚えがあるようだな」

「……昔の恋人とか?」

「さあ。あの子はたまに
茶菓子を目当てに
くるだけだからなんとも。
だけどあの
新三郎さんってのも
なんだったんだろうか?
何十年も墓の中にいたって
言ってたのに、
まだ年端もいかない花遊を見て
会いたかったはないだろう。
それとも幽霊だって
知っていたのかな?」
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