オバケの駐在所
「ま、まて。花遊?
わたしはそんな女性は
知らんぞ!?
あの人は花遊というのか?」

新三郎さんは
顔の額にたくさんの
シワを作って
目を大きく開けた。

「う、うん。
花遊さん……だけど何?
もしかして勘違い?」

「……いや、だけど」

と、言葉をつまらせながら
指を口びるにあてて考えだす。

その時、あの下駄音が
通りの向こうから
聞こえてきた。

「マズ……!かくれて」

私は慌てて
新三郎さんもろとも
桜の木の裏に身を押しこんだ。

気配からして
やはり今日も2人のようだ。

「お露だ」

新三郎さんがボソッと
呟いた。

……おツユ?

なんのことか
わからなかったけど
その音がやがてその場を
通り過ぎようとした時、
私は凍りついた。

駒下駄を鳴らして
近づいてきた
着物姿の女の人は
花遊さんではないのだ。

身なり風貌なども
それとは違う、
別人――。
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