オバケの駐在所
町並みをまたたくまに
全て燃やし、
大気までも炎に包まれている。

その中だ。

不思議と黙りこんでいた
お露が急に
窓から外にへと足を
踏み出した。

「……なぁ、冬牡丹って
知ってるかい?
寒さや雪を凌ぐために
藁やなんかで囲ってさ。
冬でも健気に
華を咲かせるんだ。
……新三郎といた時、
あの人が好きな女に
ずっと一途に
手紙をしたためていたのは
知っていた。
でも私は2人の時間を
大切にするために
見てみぬふりをしていた。
それでもそばにいたかったし、
精気も分けてもらうことで
堪えていられたから。
あの人がこの世界から去って、
今さら他の男の精気を
吸おうとは思わない。
それがあたしの守ってきた
華だと思ってた。
……だけどあの子は
それ以上にずっと1人で
守っていたんだ」

私は付け加えた。

「……新三郎さんが
手紙のやりとりをしていたのは
おヨネさんだったんだね?」

お露は振り向いて
炎の中でニコッと微笑み、
少しわびしげで
憂いな瞳を見せる。

「たとえ体が老けていっても
誰からも精気を吸わず、
新三郎に対する想いを
百年と貫いていた。
あの子こそ健気な牡丹さ。
それならこのまま
熱い炎に身を焦がして
あの子に詫びるよ。
オバケの醜い
恋の末路としてさ」

そう言って素足のまま
火の中へ進んでいく。
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