オバケの駐在所
「花遊に……
孫に会えてよかった。
昔のおヨネに
そっくりなんだもんね。
あんたも横にいる男共の子を
さっさとはらましときな。
いつ別れが
きてもいいようにさ」

……そんなことを
するくらいなら
血を吐いて死んでやるわ。

私は徐々に体が焼かれていく
その後ろ姿をただ見届けた。

だって私には
まだ人を愛することが
どういった事かも
よくわからないし、
想いつづける覚悟でさえ
あやふやなものだ。

ケジメ、責任、
人から恨まれるのはごめんだし
人一倍幸せになりたいとは
思うけど、
どちらにしてもその人のために
死を選ぶことなんて
私にはできないよ。

火は全てを飲み込んだ。

やがて鎮火したあと、
そこに残ったのは
炭や灰ではなく、
ただの黒い空間であった。

私は部屋の中でぼんやりと
霞んだ明かりを出す行灯で
空間を照らしてみたが、
煙がほのかに映る程度。

「……ここから
どうやって出るの?」

出口はないし誰が見たって
その疑問がよぎる。

そしたらハジメさんは
「飛ぶんだよ」とか
とりとめもなく
言ってくるのさ。

そういえばこんな事
何ヶ月か前にも
あったなーなんて思いながら
ヤモリのごとく
窓枠にへばりつき、
あ、行灯に牡丹の絵が
描かれてるなーと
現実逃避したところで、
「早くいけ」とお尻を
強く押された。
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