オバケの駐在所
霊体となった私がすぐ
死神に連れていかれないために
打掛は家の前の並木通りの
冬の桜から、
駒下駄は隣の部屋に住む
牡丹のオバケから
あてがってもらったもの。

妖気のあるものをまとい
霊ではなく私はオバケだと
死神に勘違いさせて
しまおうって
苦肉の策をこうじたわけ。

いや、ぶっちゃけ
かなり強引ではある。

でもなりふり
構っていられないし
私には今いち
『死』を実感できない
理由もあった。

それは私の死体が
どこにも
見当たらなかったからだ。




電車、バスを乗りついで
家の近くまでトボトボ
重たい足取りで帰ってきた。

実際は重力さえも感じないから
多摩川べりにある高校から
駅に向かうまでの
あのゆるい坂道も
ひょうひょうと
登ることができたけど。

私はふと放課後の帰り道を
思い出した。

時間が無限に感じてたくらい
何も考えないでみんなと
だらだらだべる情景が
生々しく頭をよぎって
喉の奥に何かが
こみ上げてくる……が、
私はグッと打掛の袂を握った。

「……いないか」

家の近くにある
ハジメさんの交番を覗いたが
今朝見たとおり
ひとけはない。
もぬけの殻って感じ。

頼みの綱とは言わないけど
彼なら私のことが見えるし、
それにあの人は
明るく振る舞っている傍らで
闇に深く関わっている気が
するというかなんというか
並々ならぬ何かが
あるような気がしないでも
ないような。
……気がしないでも。

それに気になるのは
今朝のメール。

もしかしたら奥の部屋に
いるかもしれないと
私は構わず中に入ろうとした。
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