オバケの駐在所
扉を開けた途端
さっきまでの足音が
嘘みたいに、
ひと気はパッタリと
なくなってしまっていた。
見えるのは1人腕を組んで
舳先に立っている人だけ。
太ももが見えるくらい
着物の裾をはだけさせて
遠くの赤く染まる空を
眺めている。
それはなんだか
哀愁を帯びた男の背中。
だがその人の後頭部は三角だし
やたらと青黒く光ってるし、
人間でないことは
遠目でわかるくらい一目瞭然。
私は板張りにしてある
平らな床に立ち上がって
駒下駄に足を乗せると、
考える間もなしに
その男に歩み寄って
肩を叩いた。
「あのう、すいま……ゲッ」
正直振り向いたその姿を見たら
気持ち悪いの一言だった。
なんせ足や体は
人間のそれと変わらないのに
頭がまさに魚だったから。
ぬめっとしたテカリ方。
平たい顎に奥張った口角。
真横についた魚眼を
こっちに向けながら
そいつは言った。
「おや、
あんたどっから来なすった?
この舟はあんたみたいな
おかしな妖怪が乗れるもんじゃ
ないはずですけんの」
口調は穏やかだった。
ちょっと安心。……が。
「私にもわかんないの。
気づいたらそこにある
下の倉庫みたいな
船室にいたの。
ここはどこなんですか?
見たところ舟みたいな形を
してますけど、
……まさか三途の川を
渡ってるなんてことは
ないですよね?」
さっきまでの足音が
嘘みたいに、
ひと気はパッタリと
なくなってしまっていた。
見えるのは1人腕を組んで
舳先に立っている人だけ。
太ももが見えるくらい
着物の裾をはだけさせて
遠くの赤く染まる空を
眺めている。
それはなんだか
哀愁を帯びた男の背中。
だがその人の後頭部は三角だし
やたらと青黒く光ってるし、
人間でないことは
遠目でわかるくらい一目瞭然。
私は板張りにしてある
平らな床に立ち上がって
駒下駄に足を乗せると、
考える間もなしに
その男に歩み寄って
肩を叩いた。
「あのう、すいま……ゲッ」
正直振り向いたその姿を見たら
気持ち悪いの一言だった。
なんせ足や体は
人間のそれと変わらないのに
頭がまさに魚だったから。
ぬめっとしたテカリ方。
平たい顎に奥張った口角。
真横についた魚眼を
こっちに向けながら
そいつは言った。
「おや、
あんたどっから来なすった?
この舟はあんたみたいな
おかしな妖怪が乗れるもんじゃ
ないはずですけんの」
口調は穏やかだった。
ちょっと安心。……が。
「私にもわかんないの。
気づいたらそこにある
下の倉庫みたいな
船室にいたの。
ここはどこなんですか?
見たところ舟みたいな形を
してますけど、
……まさか三途の川を
渡ってるなんてことは
ないですよね?」