オバケの駐在所
「ぎょはははぁ。
まさかまさか。
これが黄泉の渡し舟だって
いうんなら
あっしだってまいっちまう。
よく見なされこの舟を。
別段水を掻いて
浮かんでるわけじゃあないし、
ここが客のおもてなしを
するための場所だってのは
すぐわかるだろうに」

私はホッと息を吐いた。

扉の先に舟のデッキが
あった時は
どうなることかと思ったが
ひとまず脂汗も落ちつこう。

しかし魚さんの言うことも
確かにそうだった。

舟の真ん中には
城かと思うくらいの
立派な木の楼閣が
築かれていたり、
舟自体は火でも
かぶったかのように
真っ黒な色をしていて
訝しげな雰囲気を
ただよわすけど、
屋根瓦のへりにぶら下がる
『貘』と書かれた
いくつもの提灯。
周りの通路には
外観を損なわないような
たくさんの常緑。

それは巨大な屋形舟って
いうような
印象的な造りであった。

だけど舟は水面に浮かぶもの。
水の上にいないんだったら
どこにいるの?

そう思って船首を
覗きこむように
手すりから顔を出すと
思いがけない光景に
足がむずがゆくなった。

遙か下方に浮かぶ雲。
その隙間から見える
小粒な街並み。山々。
太陽が傾いてるおかげで
なんとか立体的に
見分けることができる地上。

そう。私も舟も間違いなく
空を浮遊していた。

「……I’m
flying,Jack」

思わず口から
某映画のあのセリフが出た。
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