オバケの駐在所
甲板にいたみんなは
忙しい立ちまわりを
思い出したのか、
撮影の時の
カチンコが鳴ったみたいに
パラパラと動き出し
それぞれ持ち場に
戻っていった。

皿やら籠やら持っていて、
見るからに仕事の途中といった
感じだったから
警戒されていたんだろう。
危害はなさそう。

「やれやれ。
そろそろ神も
集まってくる頃だろうし、
とりあえずあんたは
そのまま妖怪のふりして
皿洗いでもしといてくだせえ。
宴会が終わったら
仕方なし地上まで
送りとどけてあげるけんのう」

「……はあ」

話があらぬ方向へ
流されつつあることに
若干の不満はあったが、
私は魚さんの好意に
甘んじることにした。
今のところどこにいても
この状況下では
変わりばえしないような気が
したからだ。

生き返る兆しは
見当たらない。

むしろ神がかりな何かで
どうにかしてほしい気もする。

私は木造の黒い手すり越しに
強い風を受けながら
雄大な大海原を
もう一度かえりみた。

オレンジ色に染まっている空と
夕日がなぞるわた飴のような
甘く輝く雲海に
なんとなく死を予感させる。

……せめて舟だけは
沈まないでよね。

高度一万mから
スカイダイビングなんて
考えたくもないし、
今のところJackの代わりに
なりそうなのは
短足で無駄に小粋な
fishだけだし。

「そうだ。
一生懸命働いてくれたら、
マカナイを
ご馳走してあげるよう
言っておくけんの。
神の御膳のあまり物だから
うまいぞう?」

前言撤回。

流れにさおさせ。
やっぱ臨機応変に
生きていけないとね。
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