オバケの駐在所
どうやら神の来る時間が
予定より早かったらしく、
私のところからも
はねのける勢いでどんどん
野菜が持っていかれた。

この調子だと
もしかしたら包丁を
握らしてもらえるかも。

サラダの盛り付けくらいなら
私でも……って
ちょっぴり期待してしまったが
そうは問屋が
卸してくれなくて、
先ほどの船頭なる
粋な半魚人がお勝手に
顔を出したと思ったら
遠くから手をひらひらさせて
私を呼ぶ。

「なつみさん、
あんたには他の仕事を
任せよう。洗濯ずら」

と、タコだらけの
ゴツゴツした毛深い拳を
前後にすり合わせる。

歩いていった先の
扉を開けると、
銭湯の脱衣場みたいな
湿気の高そうな小汚い部屋に
てんこ盛りのふんどしが
私を待ち受けていた。

「じゃあ頼んだよ。
ベランダに干しきれなかったら
部屋干しでかまわんからな。
まだまだ向こうの部屋にも
溜まってるからの」

さっきの喧騒たる
調理場と違って、
こっちは油の切れた
換気扇のようなもの寂しさ。

もう完全に水をさされた私。

「そうそう。
これが終わったらこの部屋
掃除しといてくだせえ。
ほんだらな」

……ち、ちくしょう。

しかも洗濯機は
うちのより高そうな
斜めドラムだった。
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