オバケの駐在所
舟の中はまるで老舗の旅館に
泊まりにきたような
憩いの空間だった。

木の枠組みの中に
敷かれた砂利と石や
竹を巧みに
結わえている廊下やら、
歩くところ目を向けるところ
どこでも待ち合わせが
できそうなくらいの
ぬかりのないおもむきである。

舟内にはちょっとした
緑がある庭園もあって、
その粛々とした場所の
向こう側の回廊では、
忙しそうに女中が走っていた。

なんというか日本建築の良さと
異国文化の味わい深さを
足して更に洗練したような。

宝舟なんて
いったい誰が作ったのかは
知らないが、
ここの不思議な魅力は
ずいぶんと私の心を
落ち着かせてくれている。

……なんか浴衣に
スリッパとか履いて
将来こういう所を旦那さんと
一緒に歩きたいなぁ。

もしくは月が
綺麗に見える部屋で、
いい具合に光を抑えた
障子ごしかなんかで
あまりお互いに
干渉しないようにして
ちらほらと会話をしたりとか。

内容はなんでもいいから
言葉と言葉だけで
いつもと違う2人だけの世界に
入り浸ったり、
……気づいたらいつの間にか
互いの距離が
縮まってたりとか。

そしてどちらからともなく
手を繋いでいて、
そのやわらかい空間を
壊さないように
私たちは見つめ合い、
そっと静かに唇を重ねる。
とか。

……はあ、
なんにせよ私にとっちゃ
もう儚い夢だ。

私はとりとめもなく思った。

旦那さんなんかできるのかって
野暮なことじゃあなくてね。
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