オバケの駐在所
不意をつかれた。

それとも心を
見透かされていたか。

「心配するな。
俺がなんとかする。
俺が……守ってやる」

その言葉が私の心の中に
スッと入ってきた気がした。

あまり考えないように
してたんだ。

向き合いたくなかった。

じゃないと頭が
おかしくなりそうだったから。

だって死ぬなんて
想像も及ばないことが
自分の身に
差し迫っているなんて
信じられないじゃん。

あんな生々しい死体だって
初めてみたし。

なんで私が?って思ってた。

こんな訳のわからない所に
放り出されて……。

右も左もわからない。
逃げることもできない。

怒りや悲しみのぶつけ所も
わからず、
誰にも別れを告げないまま
人知れずオバケに
なっていてさ。

どうして。どうしてって……。
死ぬのなんて嫌だよ……。

ハジメさんの真っ直ぐな瞳を
見ていたら目の前が
ジワッとにじんでいって、
なんとなく私は
ハジメさんの胸に
顔をうずめた。

人にはわからない苦しみが
ずっと胸のうちに
渦巻いているんだ。

ハジメさんは私の頭を
優しく叩いた。

子供扱いするな。
私はそう口に
出してみたつもりだけど、
上手く喋れたかは微妙だ。

「そんな言葉
大人になってから言え」

別にどうってことのない
会話だったが、
意外にも私は生まれて初めて
他人に思いの内が伝わる喜びを
噛みしめていた。

低脳な言葉だけど
私はもう一度だけ
思いを伝えた。

「バカ……」
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