オバケの駐在所
「なあ……、おい……」

「ん?」

「せっかくお姉ちゃんが
帰ってきたんだろ?
一緒にいてやんなきゃ
寂しいんじゃないか?」

「……うん」

私が歯切れの悪い
返事をすると、
後ろで筆を置く音と
イスの軋む音がした。

きっとハジメさんが
立ち上がった音だ。

案の定、すぐ隣で
ライターの火打ちを
擦る音がする。

そして一息ついてから
ハジメさんが言った。

「……まぁ
もしかするとだけどさー、
その子は嬉しかったかもよ」

「……なんで?」

「そりゃ最初は
孤独を感じただろう。
ダイコクはああいう性格だから
みんな恐れちまって
誰もその子を助けようと
しなかったんだから。
その子もその事は
重々承知はしていただろうが、
辛かったと思う。
……誰も救いに
来てくれない。
逃げることも適わない。
四方をコンクリートに
囲まれたような閉塞感に
襲われただろうな。
なんで自分が……って。
よりによってどうして
ダイコクのそばに
いてしまったんだって。
……でも、
見て見ぬフリをした
他人を恨み、
そんな自分の運命に
失意をも感じたころに
お前が身を奮い立たせて
やってきたんだ。
きっとその子は感謝したよ。
種族が違うと言えど、
見るからにか弱いお前が
後を追いかけてきてくれて
あのダイコクに
逆らったんだから。
まがりなりにも
お前の死に対する覚悟は
その子に伝わったはずだ。
俺だったら喜ぶね。
間違いない」
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