オバケの駐在所
すると胸ポケットに
入れていた、
仕事用の携帯が
嫌なコール音を鳴らし始めた。

……あー、憂鬱だ。
定時を過ぎてるのに
電源を切り忘れてた。

電話にでると、
その声だけで
団塊の世代だとわかる
脂の乗った低いバリトンが
耳をうつ。

「Hi〜、ノッてるかーい?」

……あ〜、憂鬱だ。

「君さー、
あれだけ資産を
預けてくれてた
貴重な客を逃しちまって
へこむのはわかるけどさぁ、
まだやれることあるじゃない。
早く野村くんを連れて
頭を下げに行ってこいよ」

どうやらよっぽど
見かねる事態に
思われていたのだろう。

先の案件を
かんばしく思わない
上司からの
叱咤激励の電話だ。

「いや、ですが、
そうおっしゃいますが……
こちらは悪くありません。
野村もたしかにまだ
言葉が足らない所も
ありますが、
向こうは前から財テクのほうに
興味があるみたいですし、
かなりこちらも
譲歩しましたし。
それに取引法に
引っかかる不正も
強要してきているんです」

なぜ俺が頭を下げてるんだ。

俺はあいつが
適任だと思っていた。

お客に資産運用の
適正のとれた道筋を見通す、
ファイナンシャル
アドバイザーとして
まだ一人前とはいえないが、
野村はそれなりに
優秀なやつだ。

もう少し先を見越して
話ができないのか。
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