オバケの駐在所
大学時代に資格も取って
すぐに一課の責務を任され、
かわいらしい部下もできて、
……しかし今、
順風満帆だった
右肩上がりな人生も
暴落の一途を辿っていた。

かえりみると繁忙のみぎり。

周りが見えていなかった
あの頃に
失ってしまったものが、
かげりを残したまま
徐々に少しずつ、少しずつ、
首を絞めていってる気がした。

「おす。おつかれ。
待ってたよ。
相変わらず暗いわね」

受付のカウンターに
肘を乗せて
明らかにおしゃべりの
ついでと言った具合に、
カジュアルなスーツを着た
ふんわりとした
女性が話しかけてきた。

俺も首にかけてた社員証を
外すついでに
片手を上げてやる。

「なんか用か?」

「なんか用かじゃないでしょ
この甲斐性ナシめ。
一緒に帰って
あげようってのに」

当時のFAを担当する
会計事務員で、
今は業務管理に属する
小百合。

他の部から
ヘッドハンティング
されることは
意外によくあることだが、
決してこいつは
甘いマスクを
武器にすることはなく
生来のたくましさと
持ち前の技量で
人と人との信頼関係を
構築していった。

つまり出来る女である。

「待ってよ!
そんな早足で
行かなくてもいいじゃん。
優しくない奴。
なんか悩み事でもあるの?」
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