オバケの駐在所
四車線の首都高が
空を遮る日本橋を渡って
中央通りを
駅に向かって歩く。

トラックのタイヤの
道のつぎはぎを叩く音が
よく聞こえた。

「……ちょっと聞いてんの?
私を無視するなんて
いい度胸ね」

「これが悩みがない顔に
見えるのかよ」

「ったく、
ひねくれてんだから。
何を考えてんの?」

そこらの並んで歩く
サラリーマン連中に
つい灰色のため息を
ぶつけてしまう。

今日もどこかで
見たことのありそうな
顔ぶれだ。

「昔のことだよ。
ふと、探しちゃうんだ」

「何をよ?」

今度はちゃんと
聞こえていたが、
少し返事に困ってしまった。

この歳にもなると、
なるべく本心ってのは
人に知られたくないものだが、
昔ながらの
くされ縁である彼女には
見えすいた嘘をついても
無駄なことは
知っていたからだ。

「……また
あの子のことでしょ。
野村さんも大変そうだし、
あんな事があってから
賢司……人が
変わったようだもの。
抜け殻みたい」

建設現場の掘削機が
白い防壁の向こうに
見え隠れする。

工事の公認を示す
白看板には、
なんとか建設だか
なんちゃら組だかの
大手ゼネコンの名が
記されていて、
そこにはきっと
本店がひしめくこの街に
見劣りしない
ビルが建つのだろうが、
もう2年も前から
工事は何も
進んではいなかった。

……そう。
2年前から
時が止まったようだ。
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