オバケの駐在所
まわりをキョロキョロ
見渡したが、
それらしき言葉を
発しそうな人は
見あたらない。

なんだ今の……?

こんな喧騒とした所なのに
嫌に静かな声だった。

疲れてるのかと、
後ろの壁にゆっくり
よりかかろうとしたら
もう一度低く
こもった声がした。

『うけたまわるぞ』

とっさに裏通りの
排水溝を見た。

さっきの事務員の子が
話してた噂話って
そういえばこんな感じだった。

……それになんていうのか。

淀みがあって、
ドブでも口に
含んでいるような
気持ち悪い声だ。

その排水溝はオレンジ色の
古くさいライトに
照らされて、
いかにも吹き溜まりと
いった具合に
ゴミやチリが
蓋にこびりついていた。

もしかしてこれが
望みを叶えてくれるっていう
あの噂の元?

人に見留められることも
なさそうで、
ありふれてると言えば
ありふれている。

『うけたまわる』

……排水溝の中からだ。

下水の匂いと一緒に
また聞こえてきた。

盗撮マニアの
危ないおっさんでも
忍んでるんじゃないかな。

しかしたちの悪い悪戯だ。

「×××」

そう言うと
ちょうど同じタイミングで
車のクラクションが
あたりに鳴り響いた。
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