オバケの駐在所
小百合の率直な質問から
かいくぐれるよう、
上手い受け答えを
電車内で考えたつもりだが、
あまりいいのは
思いつかなかった。

まさかオバケの話なんて
言えるわけないし。

昔も今も
俺は小百合の言葉に
弱いところがあって、
話をよく丸めこまれるのは
姉さん株の気質と
末っ子根性の
折り合いも兼ねてるかも
しれないが、
なにより一番の
ネックといったら
俺が優柔不断な点だろう。

自分で言うのもなんだけど
どっちが営業職か
わからないもんさ。

「ちょっとってなによ」

「FAのノルマ
達成できてないから、
あいつならその理由が
わかるんじゃないかと
思ってさ」

「……アホくさ。
どんな風の
吹き回しかと思えば
何を今さら。
だいたい嘘が
みえみえなのよ。
あんたお墓の場所も
知らないでしょ?」

……別に
ついて来てなんて
言ってないんだけどな。

「私はあんたとは違って
今でもよく足を運ぶもの。
せっかくだし
素直にお願いするなら
お墓の場所
教えてあげるけれど、
理由くらい話しなさいよ」

「墓参りなんて
誰も言ってないだろう。
俺がここに来た理由はだな〜」

「なによ」

「……なんでもないけど」

ずっと来なかった街だ。

あいつが死んでから
葬儀も法要も……
そうか、墓参りも
来ていないな。

行っても文句しか
頭に浮かばなそうだし、
墓前で罰当たりな事を
するくらいなら、
黙って仕事でもしてたほうが
マシだろうと思ったし、
それに……
あいつ自身、来てほしくないと
思っているだろう。

死んだ理由は
きっとあてつけだろうから。
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