オバケの駐在所
今でも俺は
亡き彼女に固執していた。

なんでそこまで
とらわれているかは疑問だが、
胸の内の
苦しい理由なら明快だ。

「あ〜まどろっこしいわね、
あんたの性格は。
昔からはっきりものが
言えないんだから」

春先の小さな風にたなびく
カラメル色の髪が
振り返った小百合の
口元にはりつく。

それを指で梳く仕草が
無防備で、
そしてますます俺は
苦悩の闇へ陥るんだろう。

これからもずっと。

「ギャッハッハッ!
ワハハハハ!」

すると、交差点の
角っちょの交番から
やたらたくさんの笑い声が
にぎやかに聞こえてきた。

「こんな所に
交番なんてあったのね」

先を歩く小百合が
そう呟いたが同感であった。

壁面には苔が生えていて
夜にひっそりと忍ぶ
そのたたずまいは、
街灯の光が
届いていないために
赤くボウッとした
ランプがないと
交番とはわからない。

そんなゴシックな
雰囲気の交番を
赤信号で立ち止まって
なんとなく
振り向いて見ると、
ガラス窓越しに
人影がポツンと
部屋の明かりに灯されていた。

陰になっているが
どうやら警官が
こっちを見ているようだ。
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