オバケの駐在所
小百合のマンションは
区内のアップタウンに
建てられている。
階層は真ん中あたりだが
それでも十分見晴らしは良く、
緊急に俺達はそのまま空から
ベランダに滑りこんだ。
窓ガラスが
割られていたからだ。
「……いない!
それに……血だ。
まさか……もう……」
「まだわからない。
どこか小百合さんが
行きそうな場所とかないのか?
ただ出かけているだけかも」
まだ真新しめの血痕を
指でなぞって警官は言う。
その中でも
ひときわ大きな血溜まりに
見覚えのあるものが
落ちていた。
マスターの愛用していた櫛だ。
「くそっ!
……何しろじっと
してるやつじゃないからな。
携帯もでないし……わからん」
そこで「あっ」と、
声をあげた。
「……あそこかもしれない。
頼む。また俺を空へ。
西に行ってくれ!」
すぐに小百合の家をあとにして
再び道なき空を行った。
天気は収まったが
空気はまだまだ
凍てついている。
こんな日に病人が
うろついてんじゃねえよ。
1人で背負いこむ
ことでもねえだろ。
昨日のこと気にしてんのか?
電話にくらい出ろよ。
あいつに言ってやりたいことは
たくさんあったが、
今はともかく無事でいてくれ。
そう切に願った。