オバケの駐在所
だが、それに
駆け寄ろうとすると、
どこにたかっていたのか
わからないが
ハエのような物体が
その千切れた手のまわりを
ざわざわと蠢きだした。

呆然とするほかなかった。

次第にその体積を増したハエは
十メートルはあろうかという
巨大なあくたの山となって、
俺達を見据えるような
目と口をつけたからだ。

これが何で
できてるかといわれると
ドブのように思える。

……まさか。……まさか。

「……小百合!ひっ!
うっ……!さゆりぃ!」

夢中で大声で叫んでいた。

人を殺したと聞き、
切断された手を見て
動揺してしまったんだろう。

今まで恐ろしくって
逃げまどっていたのに
急にこの黒い塊が憎くなり
めちゃくちゃにして
やりたくって、
そしてそんな
牙を噛む殺意がまた
このあくたの山を
興奮させてるようだった。

すると隣で
口笛が聞こえてきた。

陽気な音色である。

昨日タクシーで聞いた
あの映画の劇中歌。

そんなメロディーを
吹きすさびながら
警官がその黒いドブに
近づいていくと、
ドブは目と口を尖らせて
急転直下、
のしかかるように
鋭く警官を襲いだした。

黒い影の隙間から見えた警官は
ペットでも
あやしてるかのような
表情をしていたが、
あんなものが全身に
まとわりつくなんて
見ただけでもおぞましかった。
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